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カレームのプロフィール
■カレームの仕事(3)
カレームはパティシエとして、またキュイジニエとして19世紀のフランス料理史に大きな足跡をのこしました。パティシエとしての仕事はすでに紹介しましたが、キュイジニエとしても料理の体系化と単純化に取り組み、現代の先駆けとなるシステムを準備しました。
カレームの功績はこれに留まりません。もうひとつ忘れてはならないのがカレームの教育者としての側面です。
カレームはその決して長いとはいえないキャリアの中で、6点の書物を著しており、そのうちの5点が製菓もしくは料理に関わる著作です。
彼はなぜ多忙な日常の中で多くの時間を著書の執筆に割いたのでしょう。その理由はひとつではないかもしれませんが、もっとも大きな理由は恐らく若手の教育ではないでしょうか。
カレームは最後の著書である「19世紀のフランス料理術(L'Art de la Cuisine Française au Dix-Neuvième Siècle、1833年)」の第2巻にわざわざ「若い人びとについての覚書ならびに所見」と題する一文を入れ、その中でこんなことを書いています。
若いパティシエたちに私の本を持たせることで、彼らが私の仕事を早く、容易に実践できるようになると思う。
また、「パリの宮廷菓子職人」でも「若い人たちへの助言」と題した最終章のエッセーで年少のパティシエたちに向けて、「指導してくれる先輩や師匠を敬い、指示には逆らわず従いなさい」と職場での心構えを説いています。古い因習をことごとく破ってきたカレームらしからぬ言葉のようにも思えますが、カレーム自身ラギピエールやリショー、ブーシェ、ロベール兄弟といった諸先輩の指導のおかげで今の地位を築けたことを自覚し、感謝の念を持ち続けていたのでしょう。
自分のこの助言に従えば、それが若いパティシエたちの将来に繋がることになるというカレームの主張は現代に通じるものがあるような気がします。
さらに、彼はそうした礼儀正しい態度は必ず報われると諭します。
時が経てば指導者は君を正当に評価するようになるだろう。
食に携わる者は料理だけに心を砕けば良いのであって、家内のあれこれに首を突っこむべきではない。君は誰に対しても正直で、礼儀正しく、友好的でなくてはならないのだ。
この言葉には、再三にわたって誹謗中傷を受け続けてきたカレームの苦い経験に基づく処世術といった意味がこめられているのかもしれません。
そして、このエッセイは次のような一文で結ばれています。
この芸術を愛し、勇気と忍耐力を持った若い人たちよ、くじけずに研究を続け、夢を捨てず、常に希望を持って仕事に励みなさい。そしてもし、無私の心で君に親切にしてくれる友人に出会ったならば、そんな人と知り合えたことを幸福に思いなさい。
古風な説教じみた口調が時代を感じさせるとしても、カレームの若い人たちの教育にかける思いは伝わってきます。
カレームには多くの弟子がいましたが、こうした教えに従った彼らの多くがやがて一流のパティシエやキュイジニエに成長し、カレーム亡き後のフランス料理の世界で中心的役割を果たしていくことになります。
カレームはここでも大きな功績を遂げたのでした。